
初夏の浮世絵

葛飾北斎
「あやめにきりぎりす」
あやめは、5~6月頃に咲く花で、花言葉は「良き便り・愛」。北斎は本シリーズで花と鳥を描写するだけでなく、自然の中での風・空気・時間までを表現しようと試みています。本図は静止した瞬間をとらえた図で、ピンと張り詰めた空気の中に、さかさまに止まったきりぎりすの姿もとても自然で巧みな構図です。色鮮やかな藍のぼかしが初夏の風情を感じさせてくれます。

歌川広重
「菖蒲に白鷺」
白・紫・藍・緑と、すべて青系統を主色としたこの一枚は、最も広重らしさを持っている図です。特に藍色の仕様は彼の得意するところで、欧米人の好むところでもあります。白鷺の羽根がすべて絵の具を用いずバレンで強く摺る「空摺」とした点も工夫のひとつです。図中には「白鷺下田千點雪 黄鶯上樹一枝花」の詩語があります。

歌川広重 名所江戸百景
「堀切の花菖蒲」
堀切は現在の向島の北に位置します。江戸時代、この辺りは土地が低く、隅田川の分流が流れる湿地帯で、花菖蒲の栽培に適した土地だったようです。江戸から舟で隅田川を渡って容易に行くことができたので、江戸市民にとって堀切は、散策を楽しむのに最適な場所になっていました。広重の得意としたクローズアップした花菖蒲が印象的です。

歌川広重 名所江戸百景
「亀戸天神境内」
天満宮には必ずある梅は、当然この境内にも見られましたが、梅よりも「藤」の名所として知られていたのが亀戸天神でした。藤の奥に描かれている太鼓橋が画面の中で絶妙のバランスを取っています。本来ならば太鼓橋の下は、空と同じ色のはずですが、初摺では間違えて藍色にしてしまったという作品です。華やかで人気のある図です。

葛飾北斎
「藤に鶺鴒」
垂れ下がる藤と長い尾を立てた鶺鴒の配置が見事な、北斎ならではの花鳥画です。藤の淡い紫と鶺鴒の水色の上品な色使いが美しく、実写的な細かい描写に北斎の鋭い観察眼が伺えます。

葛飾北斎
「紫陽花に燕」
紫陽花は、5~7月頃に咲く花で、花言葉は「辛抱強い愛情」。北斎は本シリーズで花と鳥を描写するだけでなく、自然の中での風・空気・時間までを表現しようと試みています。動きを表現するためか本図は、紫陽花を精密に描き、燕をラフに捉えています。また薄い色でぼかしがつけられ、紫陽花が大変立体感です。