伝統の技術・職人

伝統技術を受け継ぐ職人による
すべて手作業の制作工程
葛飾北斎「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)」の制作過程を通して、
浮世絵に代表される伝統木版画の「彫(ほり)」と「摺(すり)」の技術をご紹介します。

北斎が描いた「神奈川沖浪裏」の下絵

「神奈川沖浪裏」完成図
伝統木版画の制作工程
彫(ほり)
オリジナルを忠実に彫り上げる
版木は江戸時代と同じ山桜の古木。小刀(こがたな)、透鑿(すきのみ)など部分に応じて、道具を使い分ける。この緻密な技は、習得するまで最低7年かかるといわれている。

山桜の版木に薄くむらなく糊をのばす。絵師の描いた版下絵を版木に直接貼付けて、紙ごと版を彫ることにより、版下絵は無くなる。

版下絵に沿って小刀を入れる。この作業は、墨線の両脇に切れ込みを入れるためのもので、この過程を「彫(ほり)」と言う。

全ての線の両側に小刀で切れ目が入ると、鑿(のみ)で不要な部分を取り除いていく。この作業を「さらい」と言う。

小さく細かい部分をさらう時には、透鑿(すきのみ)のうちでも特に小さなものを使い、慎重に作業を進める。

全ての彫りの作業が終わり、主版(おもはん)が完成する。木版は凸版であるので、必要な線・面の部分が高くなるように彫られている。
摺(すり)
鮮やかな色彩を正確に再現
当時と同様に、紙は手すき和紙、絵具は鉱物や植物から採取した天然顔料を使用。色別に彫られた版木を基に、一枚一枚を摺り、色を重ねて作品を作る。

竹皮でつくった「溶き棒」を使って顔料を版木の上に運び、「刷毛」で素早く広げる。

版木に付けられた二つの見当(けんとう)の位置に合わせて、和紙を置く。

右手で馬連(ばれん)を握り、和紙の繊維の中まで顔料の粒子をきめ込んでいく。

全身の力が馬連の中心に集まり和紙へと伝わるように、馬連に体重を乗せるようにして摺っていく。摺台は手前が高く、奥が低くなっている。

一色摺り上がると、版木から和紙をはがして摺台の左側に和紙を置き、摺り上がりの状態を確認する。
北斎「神奈川沖浪裏」の摺りの順序
浮世絵は最初に輪郭線の部分を摺り、一色ずつ摺り重ねていきます。

手順01
輪郭線(藍色 ※通常は墨)

手順02
舟の黄色

手順03
舟の鼠色

手順04
空の淡紅色

手順05
遠景の空の薄い墨色

手順06
遠景の空の濃い墨色

手順07
波の水色

手順08
波の濃い藍色
日々、技術の研鑽を積む職人たち
アダチ版画研究所は、伝統木版画の技術を継承する彫師・摺師を擁する木版画工房です。版元、彫師、摺師の三者がひとつ屋根の下で制作を行うことで、作品の品質の向上に努めています。現在は、20~40代の彫師・摺師が中心となり、日々研鑽に励みながら、制作にあたっています。
