花でえらぶ
季節の浮世絵花鳥画

桜の咲き誇る春、緑のまぶしい夏、紅葉の赤に染まる秋、そして雪に覆われた幽玄の冬。

一年を通して自然が見せる様々な表情を楽しむことができるのは、日本という島国が持つ大きな魅力のひとつです。この国の四季が織りなす美しい風景は、古来より人々の心を豊かに彩り、和歌や絵画などにも描かれてきました。

そしてまた、江戸の浮世絵師たちも花や鳥、虫など、季節ごとの風情を克明に描き留めています。

季節の花々を描いた浮世絵花鳥画と共に、日々の暮らしの中で移り変わる季節を感じてみてはいかがでしょうか。

初夏

新緑が目にまぶしい初夏。藤(ふじ)やあやめ、薔薇(ばら)やポピーといった色鮮やかな花々が、春の終わりの寂しさを忘れさせてくれます。初夏の花鳥画には浮世絵特有の鮮やかで澄んだ青を基調としたものが多く、この季節の爽やかな風が見事に表現されています。

梅雨時ならではの雨露に濡れる紫陽花(あじさい)や、本格的な夏に彩を添える朝顔(あさがお)など、移り変わりが楽しめる季節です。この時期の浮世絵では、季節の花と共に、鶸(ひわ)や頬白(ほおじろ)などの渡り鳥や、翡翠(かわせみ)など、季節の鳥たちも描かれています。

芒(すすき)が生い茂る野原、陽の光をはね返して輝く大輪の菊(きく)、夕日を受けて真っ赤に染まる紅葉(もみじ)の山々。日本の秋の風景は抒情に満ちています。浮世絵では、秋の草花だけでなく、秋の風物詩である月と花鳥を共に描いた名作が多く見られます。

静かな冬にも、来る春に向けて、雪や地面の下には多くの生命の息吹が感じられます。浮世絵では、笹(ささ)や寒椿(かんつばき)などが身近な冬鳥と共に描かれています。特に、雪の白さは、和紙の地そのもので表現されることが多く、椿の花の色などと美しいコントラストを楽しめます。

初春

初春とは言え、まだ寒さの厳しい頃に咲く花々は、間もなく訪れる春への期待と共に心を明るく照らしてくれるようです。浮世絵には、香りが高く古来から親しまれていた梅(うめ)の花や、厄除けの意味を持つ桃(もも)などが花開く様子が描き出されています。

桜(さくら)を始め、牡丹(ぼたん)や山吹(やまぶき)など色鮮やかな花々が咲き乱れる春は、一年で最も華やかな季節と言えるでしょう。浮世絵には、桜のつぼみをついばむ鷽(うそ)や、春の訪れとともに飛来してきた燕(つばめ)などが、春の花々と共に描かれています。