葛飾北斎「富嶽三十六景」
「富嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)」は、葛飾北斎(1760-1849)の代表作にして、浮世絵風景画全体の代表作と言えます。このシリーズは天保初年頃(1830年頃)から、西村永寿堂によって出版されました。シリーズには「神奈川沖浪裏」(通称「波間の富士」)や「凱風快晴」(通称「赤富士」)など、世界的にも大変有名な作品が含まれています。
江戸時代の出版当初、タイトル通り36図が出版されましたが、非常に好評であったため、後から10図が追加され、最終的に全46図のシリーズとなりました。(当初の36図を「表富士」、追加の10図を「裏富士」と呼ぶ)。全図に富士山が描かれていますが、46様それぞれの個性的な富士山の姿は、いつまでも見飽きることがありません。「藍摺絵(あいずりえ)」と呼ばれるモノトーンの作品なども含まれ、シリーズ全体に様々な趣向が凝らされています。
当時、人々の間には、富士山に対する篤い信仰がありました。富士山に集団で参拝する「富士講」が盛んに行われ、富士山に見立てた築山「富士塚」が江戸の各地に作られました。こうした社会的風潮の中で「富嶽三十六景」は生まれ、爆発的なヒット作となりました。
いつの時代も日本人の心の中にある富士山の姿。「富嶽三十六景」は、単なる風景画の域を超え、日本人の心の風景を描き出しています。北斎の描いた46の富士山をどうぞお楽しみください。