
浮世絵で味わう月夜の情景

歌川広重 木曾海道六拾九次
洗馬
広重の円熟期に描かれた「木曾海道六拾九次」の特色は、豊かな叙情性が溢れている点です。画面中央の川柳にかかる大きな満月、岸辺の葦をなでる夕風、家路に急ぐ船とかがみこむ船頭たちの姿に、冬の日の夕暮の寂寞感がひしひしと胸に迫ってきます。名作の多い「木曾街道六拾九次」の中でもこの「洗馬」は、最も格調の高い作品です。

歌川広重 名所江戸百景
猿わか町夜の景
猿若町は、現在の台東区浅草六丁目付近です。江戸市中の芝居小屋が集まる芝居町だった猿若町は、江戸歌舞伎の祖、中村座座長猿若勘三郎の名から付けられました。一点透視図法で描かれたこの図は、華やかな夜の賑わいの中にも、秋の寂しさが感じられる趣深い作品です。夜空に浮かぶ満月には、「あてなしぼかし」の技法を用い、薄らと雲がかかっています。

歌川広重 名所江戸百景
京橋竹がし
日本橋と並び最も古く、擬宝珠のある欄干をもつ格式高い京橋の先には竹の問屋が並んでいました。正月飾り・七夕飾り・竹垣・竹細工など、現在で考えられないほどの需要が江戸にはありました。誇張ともいえるこの図は秋月に照らされた竹がしの風情を、印象的に捉えています。月明かりの情景は広重の最も得意とするところで詩情溢れる秀作です。

歌川広重 東都名所
高輪之明月
日本橋を発ち、東海道を下っていくと、品川の手前、江戸湾の眺望が開ける所が高輪です。夕暮れの空には大きな白い満月がのぼり、雁の群れが飛んでいます。空の藍色と海の藍色のぼかしが、画面に果てしない奥行きを生み出し、見る者に、自分も雁の群れの一羽になって空を飛んでいるような錯覚を覚えさせます。入相の日に日に早まる秋。静かな哀愁に満ちた広重の名作です。

歌川広重
月に雁
上空から眺めるような幾重にも盛り上がった空から、舞い降りる三羽の雁を短冊判にまとめた広重の傑作です。1949年に切手の図柄にもなっているおなじみの作品です。左右から藍のボカシを交錯させ立体感を作り出しています。冴え冴えと輝く満月、静かに流れる蒼い雲、そして三羽の落雁。澄み渡った秋の空遠く、物悲しげな雁の声が聞こえてくるかのようです。

