歌川広重 名所江戸百景
「浅草金竜山」
この図は雪の浅草寺雷門から、山門と五重塔を望んだものです。「大はしあたけの夕立」と共に広重の代表作です。堂塔の赤と緑が雪に映えて美しく、雷門をくぐり、浅草寺境内まで続く参道には雪がこんもりと積もっています。この雪の部分は空摺(からずり)という絵の具を付けずに摺る技法が用いられていて、積雪の量感が巧みに表現されています。
歌川広重 東都名所
「日本橋雪中」
深々と降りしきる雪の中に日本橋と江戸城、そして富士山が見えます。実際には日本橋という地形的にも、雪が降るという悪天候からも、富士山は見えませんが、絵に締りを出し見栄えがいいのは、広重の持ち味によるものだと思われます。江戸名物である日本橋と江戸城、富士山を一枚の絵の中に全て取り入れてしまった、贅沢な作品です。
小林清親
「如月」
隅田川を渡る舟から川向こうの待乳山辺りを臨む雪景のパノラマを描いた、三枚続の大作。舟に乗る人々は蓑傘姿がある一方で合羽姿があり、蛇の目傘を差す一方でこうもり傘もありと様々で、明治という変化する時代を写しています。遠く霞む対岸と手前の渡し舟の遠近感や色彩の強弱の対比が雪景色の静けさと空間の広がりを感じさせる、見応えのある作品です。
鈴木春信
「雪中相合傘」
雪道を、一つの傘を差して寄り添い歩く若い男女の姿を描いた作品。衣装の白と黒の対比が美しく、辺りの雪景色と相俟って、幻想的な光景を作り出しています。一見無地のように見える男女の着物は、和紙の表面に凹凸を生み出す「空摺(からずり)」という技術で、立体的な柄が入れられています。また降り積もる雪の厚みの表現には、紙の表面を盛り上げる「きめ出し」という技術も用いられています。
歌川広重
「雪中椿に雀」
雪綿が椿の花の上に重たげに降り積もり、二羽の雀が激しく羽ばたいています。庭前の一風景をそのまま絵にしたような親しみを覚えます。この親しさと現実感こそ花鳥画の生命であります。雀は欧州からアジアにかけて広く分布し、日本では最も親しまれた鳥のひとつです。雀には竹を配した絵が多く、冬の日に餌を求めて訪ねる姿も風情があります。