
伝統木版と現代の絵師の出会い in 1981
『木版と現代Ⅱ』
浮世絵版画は絵師・彫師・摺師の三者の協同制作です。伝統的な木版画の技術を継承していく上で、同時代の絵師の存在は不可欠です。
そして現代において絵師は、必ずしも画家ではないのかも知れません。職人たちと協働して商品を制作するという点では、デザイナーやイラストレーター、あるいは建築家こそが、絵師に近い存在なのではないでしょうか。実際に海外の文献の中には、浮世絵を紹介する際に「designed by Hokusai(北斎によってデザインされた)」といった表記も見られます。
アダチ版画研究所では1970年代末から80年代頭にかけて「木版&現代」と称する木版画制作のプロジェクトを展開しました。第一弾では、粟津潔、田中一光、勝井三雄、和田誠、山藤章二の5名が、第二弾では、黒川紀章が、現代の絵師になり、当時の職人たちと版画を制作しました。
作家たちはそれぞれ、木版の表現としての面白さを探求する作品を制作し、第一弾企画は1979年に、第二弾企画は1981年に、リッカー美術館(東京・銀座)での展覧会というかたちで結実しました。
黒川紀章オリジナル木版画
黒川紀章は、1960年代にメタボリズム運動を展開した建築家の一人。中銀カプセルタワービル(2022年解体)はその代表作である。
スケッチに、建築図面や写真、さらには名刺原稿をも組み合わせた版画作品は、既成概念にとらわれない同氏の自由な発想を端的に表している。いずれの作品も余白を大きめに取って、和紙や版木の素材の表情を活かしており、洒脱な画面構成は、現代の私たちの住空間にもすっと馴染みそうである。
<p>黒川紀章(1934-2007)</p>
建築家、思想家。1934年愛知生まれ。大学在学中に建築理論運動メタボリズムを結成。1960年世界デザイン会議に参加。生命の原理に基づき、共生、新陳代謝、循環といったコンセプトを提言してきた。こうした活動が評価され、1986年フランス建築アカデミーゴールドメダルを受賞。主な作品に、中銀カプセルタワービル、国立新美術館、クアラルンプール新国際空港、ヴァン・ゴッホ美術館新館。著書『共生の思想』は日本文芸大賞を受賞し、各国語に翻訳された。2007年没。作品収蔵先にニューヨーク近代美術館、ポンピドゥーセンターなど。オフィシエ芸術文化勲章。文化功労者。正四位 旭日重光章。
