歌川広重「江戸近郊八景 玉川秋月」
広重の最高傑作に数えられる「江戸近郊八景」シリーズ。元は一般の売り物ではなく、狂歌仲間の配り物として描かれた特注品です。本図は現在の多摩川の丸子橋付近にかかる秋の月の風景を描いたもので、柳に掛かる月、狂歌を入れるため空を大きくとった空間など、計算しつくされた構図で物寂しい秋の情緒を描き出しています。
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サイズ/重量 | 画寸法:22.2 × 34.8 cm |
素材 | 用紙:越前生漉奉書 |
特徴 | 版種:木版画 |
備考 | 作品解説(日英併記)付き |
◆ミニコラム①:平安時代から続く!?日本の伝統行事
日本人にとってなじみのある"お月見"。お月見といえば、一般的には旧暦の8月15日である十五夜に行います。旧暦の秋であった7~9月のちょうど真ん中にあたるため「中秋」とも呼ばれ、その夜の月を「中秋の名月」としてお月見で楽しむのです。現代の新暦では旧暦の8月15日が毎年ずれるため、9月中旬~10月初旬の間に中秋はやってきます。
もともと、お月見の風習は平安時代頃から江戸時代前までは貴族など高い身分の人々が行っていたものでした。それが、江戸時代になると庶民の間でも盛んに楽しまれ、現代まで続く伝統的な秋の行事となったのです。人々が月を楽しむ姿は浮世絵にもたくさん描かれています。
◆ミニコラム②:銀摺で仕上げられた 幻想的な月光
本図「玉川秋月」には、川に舟を浮かべ、月を見上げてお月見を楽しむ人の姿がみえます。 その芸術性の高さで広重の最高傑作に数えられる「江戸近郊八景」シリーズの中の一図で、元は一般の売り物ではなく、狂歌仲間の配り物として描かれた特注品で非常に手の込んだつくりをしています。 空の余白には三首の狂歌が詠まれていて、趣ある叙情豊かな秋の風情をより感じることができます。
いつまでも見む入方の山つくる ちりだにすへぬ玉川の月
国分寺布目瓦はまつたくて 光くたくる玉川の月
大江戸の水際たちて照月の 雪の白布さらす玉川
生 花 斎
余刀亭片業
養老人滝成
満月は銀摺で仕上げられており、美しく幻想的な月の光が表現されています。
川に浮かべた舟から月を眺める人の姿も描かれ、江戸っ子のお月見の楽しみ方が垣間見れます。
当時水辺でのお月見というのは特に人気があり、直接月を眺めるだけではなく川や湖などに映りゆらめく月を愛でるというのが粋とされていました。舟の上で酒を酌み交わし、本図に書かれたような狂歌を詠んだり、俳句をひねったりしながら水面の月を楽しむのが通な江戸っ子たちの過ごし方だったのでしょう。
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