加藤泉 Izumi Kato

絵画、彫刻、リトグラフなどの様々な表現方法を通じて、独自の世界を作り上げてきた加藤泉氏が、このたび伝統木版による新しいUKIYO-E制作に初めて挑戦されました。

島根県の自然豊かな土地に生まれ育った加藤泉氏。人物をモチーフに、プリミティブなイメージを持ちつつも、そこには収まりきらないような力強く生命力に満ち溢れた加藤氏の魅力が、伝統木版の技術によって新しいUKIYO-E第1弾として完成しました。


“やっぱり絵ってこの現実世界と同じくらいの強度を持つ世界を僕はこの四角の中に作るのがいいと思っていて、その絵だから、絵だけしかない世界というか情報をここに入れたいんですよね。そのことを考えていると、何か風景の中に人がいるという説明の絵ではなくて、絵の空間の中でなんかこう、絵の空間でしかないものを作ろうとする方向にいってしまう。
”加藤泉とロバート ストーの対話” (「加藤泉 LIKE A ROLLING SNOWBALL」、青幻舎、2019年、P.52 )より抜粋

“今回、浮世絵を作る工房と仕事できたことは、また自分の制作の引き出しを増やせたような気がして、とてもいい経験でした。もちろん浮世絵版画のもつ繊細な技術に感動しましたが、僕の作品はもっとその技術とコラボレーションを進めることができると思っています。いわゆる浮世絵版画のものをつくるのではなく、浮世絵がさらに新鮮に感じる何かを表すことができるような気がしています。”

彫ーCarving process

作家の細部へのこだわりを忠実に彫りあげる

加藤氏の描くリズミカルで生き生きとした描線は、作品に力強い生命力を与えます。彫師は、線に込めた加藤氏の意図を忠実に汲み取り、彫りあげていきます。

絵師 加藤氏が描いた細いドローイングの線を、忠実に彫っていきます。

彫りあがったアウトラインの版木。

摺ーPrinting process

“ぼかし”、“ざら摺”。摺の技を駆使し生まれる表情豊かな色面

伝統木版画特有の軽やかで鮮やかな発色は、手漉きの和紙に馬連で水性絵具を摺りこむことで生まれます。そして、随所に“ぼかし”や“ざら摺”といった摺の技法を駆使することで、クレパスで描いたような独特の質感が生まれました。

木版独特の鮮やかな色彩で一枚一枚摺り上げていきます。

絵師 加藤氏の描いた描線の強弱を摺の濃淡で表現しています。

首の部分は"ざら摺"という技法で、クレパスで描いた原画のように摺りあげます。

和紙と墨、そして摺師の技で生まれた木版独特のマットな黒。

欄外に書き込まれた加藤氏の直筆サイン。

Artist Profile

<h3>加藤泉(1969-)</h3>

1969年島根県生まれ。1992年武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。2007年ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展に招聘されるなど国際舞台で活躍。主な個展として、Red Brick Art Museum(北京、2018年)、2019年はFundación Casa Wabi (Puerto Escondido、メキシコ)、そして原美術館/ハラ ミュージアム アーク(東京/群馬)2館での同時開催など。